今日の臨床ノート 10年来の腰痛と右下肢の痺れ ―「腸腰筋を見ない治療」の限界

【症例概要】

  • 年代・性別:40代男性
  • 主訴:
    10年来の腰痛
    最近は右下肢の痺れが出現
  • 日常生活での支障:
    25分程度の電車通勤で立っていられず、空席を探す
    立位では、もたれ掛からないと姿勢を保てない

【来院時の身体所見】

触診および動作観察で明確だったのは、

  • 右臀筋群の強い収縮
  • 右腓骨筋群の緊張
  • 右大腰筋の明確な収縮

左右差がはっきりしており、
「腰が悪い」というより 右側全体の連動不全 という印象を受けた。


【その場で立てた構造仮説】

この症例は、発症から10年という経過がすべてを物語っている。

おそらく、

10年前の時点ですでに大腰筋の収縮は始まっていた

と考えるのが自然。

大腰筋の慢性的な収縮に対する拮抗作用として、
右臀筋群に持続的な緊張が生じた。

さらに、

  • 右腸腰筋の緊張
    → 股関節屈曲が弱くなる
    → 膝の上がりが悪くなる
    → 右足がすり足になる

という連鎖が起きている。

躓かないように歩こうとする代償として、

  • 前脛骨筋
  • 腓骨筋群

に過剰な緊張が残存。

結果として、

臀筋群の絞扼
+ 腓骨筋群の絞扼

により、坐骨神経が牽引・圧迫され、
あるラインを超えた段階で痺れとして表面化していると判断した。


【実際に行ったアプローチ】

まず、腰筋の緊張反射を基準に
「今、狙うべき筋肉」を整理した。

  1. 神経解放を目的に
    ・右臀筋群
    ・腓骨筋
    ・前脛骨筋
    の弛緩
  2. 大腰筋および右サイドのファシアを緩めるため
    ・肝臓
    ・右前鋸筋
    ・肋間膜
    へのアプローチ
  3. 最後に
    全身の体液循環調整として
    CSF(脳脊髄液)のバランス調整

「局所を追わない」
しかし「狙いは明確にする」
いつも通りの流れだが、この症例には特に重要だった。


【施術直後の反応】

施術後、座った瞬間に
患者さんが 「あっ」 と声を出された。

劇的な変化を煽るようなものではないが、
本人が無意識に反応したという点が重要。

話を聞くと、

  • この10年間で数多くの治療院に通ってきた
  • 腸腰筋へのアプローチは初めて

とのこと。

「今までと違う」という体感が、
言葉になる前に反応として出た瞬間だった。


【2回目来院時の変化】

  • 痺れはまだ残存
  • しかし、腰の辛さは明らかに軽減

この経過を見て、
回数を重ねれば痺れも消失すると確信した。


【臨床的示唆】

やはり、

世の中の多くの治療院は
「腸腰筋の収縮ストレス」という視点で
身体バランスを見られていない

と感じざるを得ない。

この患者さんは、

  • 治療院難民
  • 長期慢性化
  • 神経症状あり

という、一般的には「難症例」に分類される。

しかし構造を整理すると、
改善のルートは極めて明確だった。


【今日の結論(暫定)】

この症例は、

  • 腰痛
  • 坐骨神経痛様症状
  • 下肢の痺れ

すべて腸腰筋の慢性収縮を起点として説明できる 典型例。

適切な順序でアプローチすれば、
「10年」という時間は、改善を妨げる決定的要因にはならない。


【次回以降の臨床ポイント】

  • 右腸腰筋の反応持続性
  • 痺れが消失するタイミング
  • 歩行時のすり足改善
  • 下肢筋群の緊張パターン変化

【備考】

この症例は、
「なぜ治らなかったのか」よりも
「なぜ今まで誰もそこを見なかったのか」を考えさせられる。

腸腰筋を起点に身体を読むことの重要性を、
あらためて裏付けてくれた一例である。

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